夏への扉

早川書房 夏への扉

ロバート・A・ハインライン 作の『夏への扉』を 2 日で、もの凄い勢いで読んだ。さすがは SF の傑作中の傑作である。ごちそうさまである。

主人公は、仕事と恋愛と会社にほとんど全てを捧げてきたが、全てに裏切られてしまった悲しいエンジニアである。そんな夜、バーで傷心の中ふと目に入ったのが冷凍睡眠保険の看板である。現在の全てをなげうって、30 年後に覚醒しようとするが…。

タイトルがかなりつまらなさそうだったが、SF 小説紹介のページを調べるとどこでもお勧め本と書かれていたので、買ってみた。そう、なぜか今日の今になって SF がマイブームになってしまったのである。それぐらい『幼年期の終わり』は破壊力があった。

さて、本を手に取ってみると、小難しくハードな設定の小説では無さそうな事が分かったので、少し悩んで『夏への扉』を買う事にした。電車で読んでみると、かなり読みやすい本である事が分かる。その日、家に着いたのが 19 時であったが、夜中までひたすら読んでしまう。それほどまでにスピード感のある小説であった。また、時折出てくるキーワードとなる台詞や説明が尤もらしく、説得力があるのだ。また、ストーリーの展開がいちいちハラハラドキドキさせ、登場人物それぞれが魅力的で、話の内容も普遍的なテーマを備えている。

愛憎劇、本当に大切なものとの別れ、近未来の風俗史、伏線が終盤で一気に結合、苦境に陥っても信念を貫く主人公、人を信じる事でしか人は生きる事が出来ない宿命、自分一人で生きているのではない連帯性・社会性、時折陥る孤独感、随所に散りばめられた謎、機械と共にある生活、機械は生活をより良くする(と言う信念 ?)。こういった要素が様々にブレンドされ、随所に緊張感のあるシーン、印象的な台詞回しなどがあるので、グイグイ世界に引き込まれてしまう。

話のだけを骨格を見ると、タイムトラベル、自分自身との遭遇、過去に遡り「将来の出来事」を変更する等となり、1950 年代がどうだったかは分からないが、この辺りのキーワードは現代ではよく使い古された道具なのではないだろうか。それと、この小説は 1957 年に執筆されたらしいが、舞台は 1970 年と 2000 年、両方とも当時未来を描いた事になるのだが、21 世紀の今から見ると、1970 年ですら、近未来的だ。なんせ、冷凍人間が実用化されているのだから。

主人公は純粋で合理的なエンジニアである。それであるが故に人に騙されてしまうシーンなどは、なかなか考えさせられる。人は大人になると、狡猾になり世渡りする事を重視してしまいがちである。しかし、人生はどんな窮地に陥っても、自分の手で切り開く事が出来るし、苦しい中でも他人は助けてくれるし、明日は今日よりきっと良くなるのだ。

ステレオタイプなアメリカンドリームがいっぱい詰まった小説であったが、そんな野暮な事は考えず、純粋に心が温かくなった素晴らしい小説であった。


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