昨日

昨日
Nothing to say…

アゴタ・クリストフの『昨日』読了。
過去の三部作とは違った別作品らしい。
今回は恋愛小説。
いつもながら、アゴタの文章のドライヴ感は凄い。
2日で一気に読んでしまった。
亡命の悲壮感や工場労働者のまずしさなどがうまく表現されていて、非常にやるせない気分になること請け合いの内容。

主人公(男)は、工場労働者で、幼い頃、好きだった女性が、亡命してくることになり、たまたま、その工場で働きはじめると言うものだ。
実はお互いに相思相愛だが、女性の方は結婚済み。
学者様と一児の子を儲けている。
ただし、あまり夫婦間で会話はなく、関係は少し冷めている。
主人公は、娼婦の息子で、どうしても、社会的地位がなかったり、様々な要因で、目的の女性となかなかうまく行かない。
というのも、上流階級と下流階級の悲しい現実がそこにはあるからである。
また、ある秘密を主人公は握っているのだが、相手の女性に明かすことの出来ないとても痛烈な内容の秘密だからである。

また、時に女性は非常に冷たい側面を見せる。
主人公に、とても冷たい言葉を言ってしまうのだ。
「あんたなんて、所詮、タダの工場労働者でしょ。」←グサッと来ますね。
相思相愛であっても、社会的な立場がお互いを拘束する。
うーむ、なかなかうまいこと行きませんね。

ところで、この主人公、滅茶苦茶モテる。
おまけに、行動力があるので、かなり無茶をする。
目的のためなら、人を殺すことだって厭わない。(その辺は、『悪童日記』に似通ったものがあるが…)
で、色々いい話はあるのに、最後は普通の生活を選択する。
うーむ、習慣化の悲しさってヤツですかな。
「物を書く」というキーワードが、アゴタの作品では良く出てくるが、この『昨日』でもそうである。
主人公は、物書きになって、一攫千金を夢見るが、その夢も、最後は捨ててしまう。
全ては現実が重すぎるように主人公にのしかかってくる。

総じて、どこか寂しく儚い感じのする小説だった。